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未来へつながる実験
無の会はまだまだ経営や栽培方法を確立できておりません。だからこそ、いろいろな栽培実験をする余地があるし、農業と他の活動を組み合わせて、まだ見ぬ楽しみを作り出すことができます。
このページでは、無の会が取り組み始めた、うまくいくのかどうかわからないけれど、ワクワクする実験の数々をご紹介します。
ライ麦を使った不耕起栽培
無の会では約1ha(=1町=100m*100m)の面積で大豆を作っており、味噌や納豆に加工して販売しているのですが、その大豆畑の除草は全て手作業で行なっています。これがとっても大変なのです。令和5年度の大豆畑の草刈りは、農園に遊びにきてくれた若者の力を借りて終えることができましたが、毎年こううまくいくとは限りません。そこで、無の会では令和5年から、実験的にアメリカの大規模農業でよく取り組まれている、“カバークロップ”を利用した不耕起栽培を、一部の大豆生産に実験的に取り入れ始めてみました。
そのために必要だったのがローラークリンパーという機械。日本にはまだ1台しか導入されていないと聞いて、「じゃあ2台目を作っちゃおう」と話がまとまり、1ヶ月ほどかけて自分達で溶接(アークとか酸素とか)をして作ってしまいました。汗だくになって完成した頃には、前年の秋に蒔いたライ麦が堆肥をいっぱい吸って2m以上の丈に成長していました。
実験圃場に堂々と、重々しい雰囲気を放って姿を表した国内2台目のローラークリンパーは、一瞬にして一面に広がるライ麦を薙ぎ倒しました。すばらしい!
でも困ったのが、その後の播種でした。分厚く重なったライ麦の絨毯の下に大豆をうまく埋める方法が決まっていなかったのです。市販の播種機には、ライ麦をかき分ける機能がないので、その春はとりあえず人力で種を土に埋めました。しかしその作業の大変だったのなんの。何年も堆肥を振ってふかふかになっていたはずの土は、ライ麦の根がぎっしりと張ることで、容易には掘れないようになっていました。
8月になり、ライ麦(が敷かれた)畑では大豆がスクスクと育っています。自分で窒素を固定できる大豆は、ライ麦に栄養を吸われた後でも全く障害なく育っています。ほぼ完全に抑草された株間は、裸足で歩くとふっかふかで心が弾みます。
私たちは、来年はもっと大きな面積で実験を続けたいと思っていますので、播種機を作らなきゃいけません。大変そうですが、これができたら日本の大豆生産に新しい風を吹き込めます!僕たちのライ麦マルチ実験はまだまだ続く。
真菰(まこも)の栽培
真菰(まこも)とは何のことかご存じですか。一説によると縄文時代から日本に生えているという、水辺に生える地下系植物です。真菰にも2種類あって、アメリカ先住民が食しているのは、ブラウンライスと呼ばれている黒いお米のような真菰で、超高栄養の食材です。一方、現在日本で一般的に栽培されているのは、肥大化した茎に住みついている黒穂菌という菌が可食部の真菰で、真っ白な円筒形の菌と食物繊維の集まりを炒めて食べられます。
今回僕たちは後者のマコモダケの栽培を始めたのですが、そのきっかけは、水捌けがあまりに悪くて稲作に適していない圃場を、有効に(楽しく)使うためでした。
福岡から200本の苗を取り寄せ、メンバー4人で一本一本手植えした真菰は、8月には僕らの身長を越すくらいに成長しました。九州で見た真菰は、背丈がせいぜい170cm程度でしたので、この成長は長年振りつづけた堆肥の力によるものなのでしょう。
それで結局どうするの?って聞かれると困るのですが、ひとまずこの冬には、真菰の葉を使って、しめ縄を作ろうと思っています。出雲大社をはじめ、さまざまな神社のしめ縄の材料として真菰の葉は使われています。来年の豊作を記念するお守りを作りながら、地域の人から縄ないの技術を受け継げる。そんな交流・技術習得材料として、真菰は活躍してくれるはずです。メンバーは皆、真菰の成長がたのしみで、ことあるごとに観察しに行っています。
超希少品種のお米の栽培
日本で一番生産されているお米の品種はコシヒカリです。2位に3倍以上の大差をつけてのダントツ優勝です。でもかつてはこれほど品種が偏っておらず、固有の品種が各地で作られていました。当時の旅人は、旅先でお米を食べることで、その土地の性質を感じることができたのかもしれませんね。
なんともありがたいことにご縁が重なり、無の会は令和5年度から、いくつかの希少品種のお米の栽培を始めることができました。どれもかつては味の良さを讃えられ、各地で作られていたお米でしたが、今となってはほとんど作られなくなってしまった品種です。作られなくなった理由は、いずれも倒伏しやすいからでした。化学肥料を使って収量をあげようとする栽培方法では、稲の免疫力や本来の強さを引き出してもらえず、扱いづらい品種の烙印を押されてしまったのです。
「本来は強く美味しい品種のはずだ!堆肥だけで土づくりをする昔ながらの農法で作れば、最高のものができるに違いない!」ということで、私たちは栽培を始めました。どの品種もかっこいいので、品種ごとの特徴をお伝えします。
☆亀の尾
かつて、「東の亀の尾、西の旭」と名を馳せた片割れの品種。冷害や病害虫に強いお米として、人気を博し、一時は東北・北陸地方を中心に、台湾や朝鮮半島でも生産されていたらしい。粒が大きいため、酒米としてもつかえる。大島は、以前訪ねた淡路島の農家さんが作っていた亀の尾を、おにぎりにしていただいた記憶が忘れられない。あの感動的な美味しさを、無の会の堆肥で再現・超越していけたらいいな、と思いながら成長を見守っている。
稲穂が銀色に光るのはおそらく亀の尾だけ。西日に照らされた姿は息を呑むほど神々しい。
☆旭
京都府乙訓郡向日町で発見された大粒のお米。あっさりした味が特徴で、今でも関西以西の自然栽培の農家さんがときどき作っている。京都の大学を卒業して今年から農園に参加した大島が、3月に京都府向日市の筍農家さんから餞別として種籾をいただき、はるばる一緒に移住してきた。西日本の気候に適応している晩成種のはずだが、一部の苗からは早めに出穂しており、このままいけば、東北の気候に適応した種が自家採取できるのではないかとワクワクしている。稲刈り時に脱粒しやすいらしいのが少し不安。
☆農林21号
かが有機農法研究会さんの熱意と努力によって蘇った幻のお米。農林1号と旭を掛け合わせて作られており、「一番旨い米は農林21号だ」と食通から支持され、高い評価を受け続けていたらしい。
すらっと真っ直ぐ天に伸びる姿は健康そのもので、見ていて惚れ惚れする。